『二度あることは、必ず三度起こる』

彼の名前はカスパー。30代のデンマーク人。
私が彼と出会ったのは、4年前に歩いたスペインの巡礼路。

カスパーは、都市伝説から宗教儀式まで、不思議なこと、神秘的なことに興味を持っており、面白い話をいくつも教えてくれた。
彼はまた、小説『アルケミスト』が好きで、ほとんどのセリフを暗記していた。
会話の中でしばしば、「アルケミストでも、錬金術師がこう言ってたでしょ?」と引用することもあった。

巡礼路を歩くと言うことは、常に一期一会。約束しない限り、いつまた会えるか分からない。もう二度と会わないことも、十分あり得る。

私とカスパーは、一緒に歩く約束はせずにいた。
出会う時はいつも、偶然だった。

彼と二度目にばったり会った時、カスパーはこう言った。
「キミにまた会いたいと思っていたから、会えて嬉しいよ。
今日別れても、僕たちはきっと、また会うだろう。
『二度あることは、三度起こる』と、アルケミストでも出てくるでしょ?」

しかしその後、私はカスパーと会うことはなく、巡礼路を歩き終えた。

「『二度あることは、三度ある』と言うけれど、常にそうと言うわけじゃなかったね。」
心の中で小さくつぶやいた。

それから2年が経ったある夜のこと。
スペインの街を一人で歩いていたら、橙色に燈る街灯の下に、なんだか懐かしい顔を見つけた。

「この街に知り合いがいるわけないけど、なんか誰かに似ている。誰だっけ?」

思わず立ち止まり、じっと見ていたら、向こうも私から視線を逸らさない。

記憶にあるその顔より、うんと日焼けしており、髪が伸びていたからすぐには分からなかったが、まさかのカスパーだった。

「カスパー?!」
そう呼ぶと、彼は探るようにゆっくりと近づき、口を開いた。

「…まさかリサ?ここで何してるの?!」

私たちはとりあえず、道の向かいのバルに入り、赤ワインで思いがけぬ再会を乾杯した。

お互いの近況を一通り話した後、何杯目かのワインを飲みながら私は言った。

「覚えてる? 巡礼路を歩いていた時、あなたは『二度あることは、三度起こる。だから僕たちはまた会うだろう』と言ったこと。
結局あの時、私たちは三度目は会わないまま、歩き終わったじゃない?
それで終わりなんだと思ってた。
まさか2年後にこんな場所で、バッタリ会うなんて。本当にビックリしたわ。やっぱり世の中、不思議なことはあるのね」

カスパーはニヤリと笑うと、グラスのワインを飲み干し、こう言った。

「だから言ったでしょ? 二度起こることは、必ず三度起こるんだよ」